シンポジウムパネルディスカッション記録「学生が変わる!? 地域が変わる!? ~NPOインターンシップ徹底解剖」

この文章は2019年9月15日に開催したNPOインターンシップラボシンポジウ「小さな主人公を育てる実践者が語る未来」 の報告書より抜粋しています。
詳細は下記報告書をご覧ください!
http://intern.yokohama/labo/img/2019houkoku.pdf

川田さん:後半のパネルディスカッションでは、より具体的に学生や受け入れ側はどのようなことを感じているのか、さらに中間支援組織はどんな仕掛けをしていくのか、これからインターンシッププログラムを進めていきたいという人にも共有できるといいと考えています。最初にアクションポートのプログラムの説明を高城さんにお話いただきたいと思います

<横浜のプログラム紹介>

高城さん:横浜のNPOインターンシップは10日間の短期プログラムと3か月から6か月のプロジェクト型である長期プログラムで募集します。プログラムは一般的なインターンシップのものと同じで、説明会や研修会を行い、お見合い会や面接を行ってマッチングをし、8月9月の夏休みを中心にインターンシップを行います。そして短期だと10月に、長期だと3月に報告会があります。毎年学生は70人くらい、そのうち10人くらいが長期インターンシップです。短期は横浜市内の10大学と連携をしていて、いわゆる単位認定になる授業の一環で参加するプログラムになっています。私たちのインターンシッププログラムの特徴は「まぜこぜ」でインターンするということです。団体も福祉分野や環境分野などさまざまで、学生もいろいろな大学の学生が参加しています。こうした地域の多様なプレイヤーが一緒になって実施するプログラムは地域の中間支援組織がからできることだと思っています。

<インターン経験者からのコメント>

川田さん:インターンシップを行ったおふたりはどのような団体でどのような活動を行い、それによってどのような変化がありましたか?

荒木さん:2年前にNPO法人アークシップでインターンを行い、現在、就労継続支援施設で支援員をしています。また現在もアークシップでもサポートスタッフもしています。

アークシップでのインターンは「ホッチポッチミュージックフェスティバル」という音楽イベントの広報をすることでした。広報はふたつ目的がありました。ひとつは4万人の集客を目指すということ、そしてもうひとつは幼稚園や保育園にワークショップを届けるということでした。

当時、大学では保育学科で保育の勉強をしていましたが、当然保育学科なので保育の勉強しかなく、このまま社会に出ていいものかと考えて先輩に相談したのがきっかけで、NPOインターンシッププログラムに参加することにしました。参加するにあたっては、とにかく福祉から一番遠い組織ということでアークシップを選びました。

積極的で気遣いができるインターン生に囲まれて、自分にはどんな役割が果たせるのかと悩んだ時もありました。そんなあるとき、ワークショップ用の太鼓を見て「子どもには重い」と思って、より小さなものを作ったらどうかと提案し、採用されました。さらに「子どもの前でレクチャーするのが上手だね」とも言われました。保育以外の分野でインターンをしようと思っていたのに、保育の勉強をしたことが役に立ちました。その経験から学んだことは適材適所で活かされて、無駄になることはないのだなと分かりました。そのようにインターンを通して自分の自信につながっていきました

川田さん:そこで変わったということが、そのあとの自分のキャリアにどう影響しましたか?

荒木さん現在は保育以外の仕事をしています。保育園の実習で子どもの声にたいして苦手意識を持ってしまい、企業なども視野に入れて就職活動をしていましたが、アークシップの代表やスタッフに相談したところ「荒木さんは福祉が合っている」と言われ、その言葉で次の実習を頑張ってみようと思いました。その実習先が今の就職先です。その施設での学生とのかかわりかたがアークシップに似ているというのが就職の決め手になりました。

アークシップでインターンをしていて衝撃的だったのが「大学生は新しい風を入れてくれる人」と言われたことです。学生に対してちゃんと対等に受け入れてもらえているなと感じることができました。

もうひとつは、学生にはなかなか相談できる大人が周りにいませんでした。しかし、インターンをすることを通して、アークシップやアクションポートなど、相談できる大人と出会うことができ、新しい視点をもらえました。私はもともと物事をネガティブにとらえてしまうのですが、インターンを通して少しずつポジティブな自分になれたと感じています。

嶋田さん:被災地でのボランティア活動を経験しましたが、そういう場所では指示待ちになってしまい、ただの労働力としてのボランティアになってしまいました。今度は主体的にかかわりたいと思い、それに加えて学問としてのボランティアをきちんととらえたいと考えて、インターンシップのある授業を履修しました。

インターン先はコトラボ合同会社の寿町にあるホステルビレッジでした。寿町は日本三大ドヤ街で横浜の日雇い労働者の街であり、現在生活保護で暮らす人の多い高齢者の街でもあります。格安のユースホステルでの活動でしたが、スタッフからは「特に何も指定しないので自分たちでやりたいようにやってください」と言われました。そこで5人メンバーで話し合って活動を決め、イベントの開催と清掃、まち歩きなどの活動を行いました。それらの活動を通して、どれだけ当事者意識をもつかで行動が変わると感じました。さらに「自分で考えてやってください」と言われたことで、自分で考えて行動しなければいけない状態となり、それが意識を変えました。受け入れ先がお客さん扱いしないで「やりたいことがあれば一緒やるから」と言ってくれたこともよかったです。

インターンを行うことで価値観を広めることができましたし、普段の学校生活の中では出会うことができないような人たちと出会ことができました。これから就職活動が始まる中で、ずっと同じ会社で働かなくてもいいと知ることができ、さまざまな生き方があると知ることもできました。さらに社会問題が身近に感じられ、ニュースでしか知らなかったことに対しても「まずは自分の目で見ること」の大切さを学びました。

<コーディネーターの関わり>

川田さん:プログラムを作る側からするとふたりの事例を聞いて参考になった一方で、単位を取りたいだけの学生の参加だったらどうなのかということに課題を感じます。中間支援としてはその問題にどのように取り組んでいますか?

高城さん:体験したふたりの声は実感がこもっていて響くものがあると思いました。それは本人の努力と受け入れ団体の想いによるものなので、中間支援からコメントするのはおこがましいと思いつつ、今回は機会をいただいたのでこの立場で思っていることをお話しします。

今はほとんどの学生がインターンシップをする時代で、インターンシップも身近になっています。それにたいしてボランティアをする学生は2割くらいしかいません。「ボランティア」よりも「インターンシップ」のほうが一般的で、学生には身近なものとなっています。またボランティアは入ったら抜けられないというようなイメージがあるので、期間や目的の決まっているインターンシップのほうが参加しやすいようです。

私たちがやっている「お見合い会」で学生と団体のマッチングを仕掛けています。お見合い会では参加団体に集まってもらい、プレゼンテーションで全団体の活動を聞くことができます。例えば「子どもにかんする活動をしたい」という思いで参加している学生がいるとして、いろいろな団体の話を聞くことで環境系や国際系などの分野でも子どもが関わっているということに気づく機会になります。さらにはお見合い会を通して横浜の多様な社会課題を見るともできます。そして大切なのは「顔が見える」ということです。どういう人が運営しているかが分かることで団体に参加しやすくなります。

全員で研修ができるというのがすごく大きなポイントです。ここで目標設定をしたり、プログラムの内容をお互いに共有することで刺激を受け合うことができます。また長期のインターン生は定例会というのをやっていて、学生同士が何のためにやっているのかを共有する場だったり、先輩に来てもらってメンターになってもらったりしています。コーディネーターが教えるのではなく、学生同士が支え合い、さらに刺激しあえるような仕掛けを研修会や定例会という場でしています。中間支援の役割は「みんなでインターンをする」場をコーディネートすることだと考えています。

<受け入れ団体の変化>

川田さん:受け入れ団体側として、受け入れることで地域ではどのような変化が起こるのでしょうか?

舘さん:私たちNPO法人びーのびーのは保育園、子育て広場、預かり保育、など多様な事業を行っています。私はその中でもおやこの広場「びーのびーの」という現場を運営しており、そこにも毎年学生インターンがやってきます。

インターン生は子どもたちと遊んでくれます。子どもたちも普段遊んでもらえないお兄さんお姉さんと遊んでもらえて喜びます。今は10人のうち7人が乳幼児に接したことがないまま親になります。そういう意味で子どもと遊ぶ体験をしてもらうのは、インターンの学生にとっても大切だと考えています。

そしてそれ以上に重要な活動がお母さんと話してもらうことです。インターンの場では学生には「何を話しても構わない」と言っています。ある学生は「留学の予定があるが英語ができないのですが、どうしたらいいですか」という相談を広場に来ていたお母さんにしていました。そうするとひとりのお母さんが「私は英文科卒業ですが、あのときに留学すればよかったと思っています」という話を皮切りに、30分ほど学生の相談に乗りました。

このお母さんこの間まで子供の首の座りが遅いと悩んでおり相談する側として来ていました。子育てはどうしても子供が主役になってしまいますが、学生の相談がお母さんを主役にしました。後で学生にそのことを言い「ありがとう」と伝えます。そうすることで学生が主体的に動いてくれるようになります。

川田さん:活動の中で苦労している点はありますか?

舘さん:安全確保しながら遊ぶということは大変で、常に見守りながら遊んでもらっています。そこはとても気を使います。その中で大事なのは、まずは私たちがその学生を好きなることです。たくさん質問をして学生を知って、私たちが学生とフレンドリーになることで、お母さんたちも学生に対して安心して話すことができます。学生が来ることで想像したことのない人と人の化学反応が生まれます何年か経ってふらっと遊び来てくれると近所のおばちゃんみたいでとても嬉しい気持ちになります。確かに気は使うけれど、やめられない魅力があります。

<コーディネーターと団体の関わり>

川田さん:中間支援組織として団体にたいして気を使っていることはありますか?

高城さん:学生に対してと本質的には変わらないです。インターンシップは就業体験でボランティアとは違います。学生はスタッフとして関わるので、お客様にしないようにと考えています。企業とNPOでは受け入れ目的が決定的に違います。企業では戦力になる学生がほしいと言いますが、社会の中で社会のために人材育成をするNPOはどんな学生でも受け入れてくれるところが多いです。

お見合い会は団体にとってもいい機会となっています。お互いの団体を知るだけではなく、工夫して築いてきた受入れ団体としてのノウハウが共有できます。お見合い会で出会った団体どうして勉強会を開催しているところもあり、何かあったら聞き合うことができます。

さらに団体同士だけでなく、大学と団体がつながる場としても機能しており、インターンシップ以外にも協働できるきっかけにもなります。

また、大学や受入団体との協働運営ということもあり、仕組みを作り込みすぎないようにということに注意しています。またトラブルが起きると、それは中間支援としてはチャンスだと捉えます。なぜなら受け入れで問題が生じたときには一緒に解決に取り組むことで団体ときちんと向き合うことができるからです。あくまでこちらが提供するのではなく、コラボレーションするという姿勢で取り組んでいます。

<プログラムの課題>

川田さん:資金源が課題という話が前半のパネルディスカッションであったと思いますが、アクションポートではどうしていますか?

高城さん:まだこれだというと資金源は獲得できていませんので、運営費はいくつかのところから少しずつ入ってきます。まずは提携大学から実行委員会費、講師謝金など、さらに社会人になった卒業生も増えてきて、その人たちからの寄付金も少しずつ集まるようになってきています。学生の参加を応援しているプログラムということもあり、昨年は合計で30万円が集まりました。さらに「インターンシップの教科書」を開発して販売しています。

<最後のメッセージ>

舘さん:学生さんやっぱりかわいいです。それにつきます。皆さんには怖がらずに受け入れてほしいと思います。

嶋田さん:普通の大学生活だと、授業・アルバイト・サークルで終わってしまいます。インターンシップという選択肢が増えると成長できるのではないかと思います。

荒木さん:大学時代に大学やアルバイト以外の大人とつながれる場があることで自分も救われました。そういう場がたくさんあるといいと思います。

高城さん:「まぜこぜにする」というのは地域の中間支援の大事な役割です。まちには学生がいて、志のある団体がいて、接点を作るだけでこんなに素晴らしいことが起きます。いろいろな手法があっていいですが、NPOインターンシップがその可能性のひとつだと思っています。

川田さん:今日をきっかけに学生を受け入れたい、インターンシップの仕掛けを作りたいと思ってもらえるといいと思います。

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