シンポジウムパネルディスカッション記録「小さな主人公を育てる実践者が語る未来」

この文章は2019年9月15日に開催したNPOインターンシップラボシンポジウ「小さな主人公を育てる実践者が語る未来」 の報告書より抜粋しています。
詳細は下記報告書をご覧ください!
http://intern.yokohama/labo/img/2019houkoku.pdf

山岡さん:小さな主人公を育てる実践者が語る未来とうテーマですが、そもそも「小さな主人公」が分かりにくいテーマです。「小さな主人公」がいるのであれば、対比して「大きな主人公」がいるということです。「大きな主人公」とは NPOの代表やコアメンバーなどでしょうか。

それに対して「小さな主人公」は、中心的ではないが市民活動や NPO の活動にボランティアやパートタイムとしてお手伝いをする人たち、いつかかかわるかもしれないと思いながらセミナーに参加する人などを指すのではないでしょうか。リーダーが出てくればフォロワーも出てきますので、リーダー層を育てるということも大事ですが、ダイレクトにフォロワー界を育てるということも大事だと私たちは考えます。実際の NPOの活動はこうしたフォロワー層に支えられています。調査によるとボラン ティアに関心はあるが、実際にしたことがない人は約 3割います。ここを埋めていくのはリーダー層ではなくフォロワー層だと言えます。

現在、NPO やボランティアに関するさまざまな取り組みが行われており、関心がある人は増えていると思われがちですが、データから見るとボランティアをしている人は増えていません。他方でボランティアが全くいないというNPOも2割以上あります。市民社会を作っていく回路のひとつとして NPO がありますが、その NPO の役割が機能していないということはとても大きな問題です。市民社会を形作っていくためには「小さな主人公」を育てることも必要ではないでしょうか。

<パネリストの自己紹介と活動の紹介>

大木本さん:私はトチギ環境未来基地という NPO 法人で働いていました。日本は国土面積の 70%が森林で、栃木県も 55%が森林です。トチギ環境未来基地もこの森林をどう守っていく かをテーマに活動をしています。

団体を立ち上げたきっかけは代表の塚本さんがアメリカで20 年前にアメリコー(Americorns)というプログラムに参加したことでした。アメリコーは国のお金を使って1年に渡り各地域で若者が活動します。その中のひとつのであるシアトルのアースコーでは、アメリカだけでなく各国から若者が参加して、国立公園の整備や外来種の駆除、植林などの環境保全活動を行っています。アメリコーは国のお金を使って若者の育成と就労の場を 提供しています。日本にはなかなかないシステムで、今までに年間 75,000 人が参加しています。ボランティアで はなく有償で、生活手当がでるだけでなく、奨学金の返済も受けられます。若者が社会の一員として実践的に学  境保全の仕事につくなど、プログラムを使ってキャリアアップをすることもできます。このようなプログラムを栃木に作ろうと思ってトチギ環境未来基地の活動は始まりました。

栃木では3か月という期間を決めて、春と秋の2回に分 けてプログラムを行っています。日本人だけでなく外国人も参加し、一緒に自炊して、森に入って実践的な環境活動を行います。今まで 10 年間で 73 人が参加し、6人が栃木に移住、23人が NPOに就職しました。  この活動にかかわる人たちが環境のことをどう感じ、そ れをどう活かしていけるか。それを考える時間をプログ  ラムの中に取り入れて、いろいろなことを持ち帰っても らっています。

荒木さん:私たちは子どもと大人が学び合う寺子屋をお寺で行う「Tera school」という事業を行っている京都の団体です。「学び合い」「探究」「プログラミング」の3つのコースがあり、教師と生徒のような関係ではなく、先輩と後輩のような関係づくりをしてお互いに学び合う場づくりをしています。また、より良い学びを実現する「現代の寺子屋」のモデルを全国に広める活動も行っています。

インターンシップは大学経由などではなく、自発的に来る学生のみを対象としています。半年区切りではありますが、随時更新をすることができ、いつまでという期限をはっきりと定めていません。内容は子どもたちと学び合う教室に参加、各教室や事業の運営、また開設支援の場にスタッフと一緒に行くこともあります。ボランティ アが中心ですが、一部有給の業務もあり、ボランティアと有給スタッフを兼ねている場合もあります。大学何年生であっても参加でき、交通費やボランティア保険のほか、「みんなで学び合う」ために月に 3,000円までの図書費も補助しています。京都市内の学生が中心ですが、大阪や神戸から来ている学生もいて、常に 20 人くらいの学生がいます。また、アフターファイブで参加する社会人ボランティアもいます。

インターンを経験すると進路選択に妥協をしない学生が多く出てきます。いろいろな大学や価値観の学生が集まっているだけでなく、社会人、主婦や退職したシニアボランティアもいますので、外部の人に鍛えられるようです

地域志向やベンチャー志向の就職活動をする学生も多く、大学院に進学する人も少なくありません。子育てや教育が中心の活動なのでそういう分野に進む学生も多く、卒 業生はいろいろな分野で活躍しています。

私たちは現在トヨタ財団の助成金を利用して「大学生とNPO の双方が育つモデル」について、さまざまなプログラムの独自性や共通点などを調べています。この助成金は社会的アクションのための予備調査という位置づけですので、来年度からは関西の複数の NPO と大学関係者の協働の企画として、調査の成果を活かしながら、半年く らいの長期インターンシップを設定して、学生と NPO が ともに成長するインターンシップを京都にも作っていきたいと思っています。

秋元さん:もともと児童養護施設の指導員で、ボランティ アの受け入れ係をしていました。地域のさまざまな世代がボランティアを行い、大学のサークルが学習支援を行う中で子どもとの職員とは違うかかわりかたを見て、子どもたちを支えるのは必ずしも福祉の専門職ではないと いうことを学びました。

青山学院大学では 2016年にボランティアセンターを設立、また現在はサービス・ラーニングとして、大学の科目の中でも学生が市民活動とつながっていくことができる取組を始めています。サービス・ラーニングは学生が地域の中にあるさまざまなニーズを知り、何ができるかを考え、行動につなげて いく学びです。特徴的なのは「大学での学び」を活か した形で社会参画していくということです。活動を通して自分の学問的関心に発展させていくだけでなく、学生を受け入れる地域にとっても気づきがあり、ともに市民社会を形成していくことができるのではないかと思います。

本学のサービス・ラーニングでは「サーバントリーダー シップの育成」を大事にしています。サーバントリーダーシップは従来の強い権力者のリーダーシップから、人に奉仕し耳を傾けていく中で、世の中で何が求められていて自分になにができるのか、そしてそこから社会を導いていくビジョンを示す、新しいタイプのリーダーシップです。本年度のサービス・ラーニング科目は一般教養の中にあるキャリア形成の選択科目として、相模原キャンパスで24名の受講生で開催しました。実習先は横浜と相模原のあわせて7つの市民活動団体で、アクションポート横浜が中間支援としてコーディネートに入りました。

終了後のアンケートではNPO側からは「自分たちの社会的ミッションを共有できた」という回答が寄せられました。そして学生からは「NPOと一緒に活動をすることによって、考え方や生き方、価値観に影響を受け、自分の今度のキャリアを考えるようになった」という意見が出てきており「市民活動に初めて触れたが、今後も活動してみたい。別の活動も見てみたい」という継続的に関わりたいという人がほぼ100%でした。その半面で「もっと活動時間を増やしてほしい」という回答もあり、学びと活動のバランスの難しさを実感しました。

<質問・感想の共有>

・大木本さんから荒木さんへ

大木本さん:荒木さんにお聞きしたいのですが、子どもと大人が学び合うという言葉がいいなと思いましたが、地域とのかかわりはどういうことがありますか?

荒木さん:NPOなのでそもそも地域にステークホルダーはたくさんあり、私たちはマルチステークホルダーを大事にしています。あとは社会資本としてのお寺に着目して使わせてもらっていますが、お寺は地域と密接にかかわっています。しかし私たちがお寺の周りの地域とつながれているかというと、そこは個別性が大きいので、つながりを増やしていくことは今後の課題です。

・荒木さんから秋元さんへ

荒木さん:学生サイドからのアンケートの結果をどう捉えていますか? また、それをより高めていくためにはどういう要素が必要でしょうか?

秋元さん:大学の授業の一環で取り扱えたということはきっかけとして大きな意味があります。ボランティアセンターに来るというのはハードルが高いと感じる学生もいますが、そういう学生にとっても授業があれば先生と一緒に地域や社会とつながることができます。しかし、実際に参加したサービス・ラーニングを受講した学生は、すでに活動をしている学生が多かったのも事実です。多様な関心や経験の差がある学生にどのようなサービス・ラーニングを展開していくかは今後も模索していきたいです。

荒木さん:他の大学で参考になっている事例はありますか?

秋元さん:国際基督教大学では日本の学生と海外の学生が一緒に地方に行って高齢者から戦争体験を聞いて記録するというような活動を行っています。そのようなサービス・ラーニングは興味深いです。

・秋元さんから大木本さんへ

秋元さん:外国の若者は目的意識や文化の違いがあると思いますが、それはどうやって克服していますか?

大木本さん:朝、活動が始まるときは、一緒に活動する人たちで自己紹介をしてから始まります。たとえば、前回はロシア、フィリピンからのメンバーがいました。コミュニケーションの架け橋を日本人職員、メンバーが行います。まずはお互いを知ることが大事なので、休憩中もお互い話せる場を作るという工夫をしています。

・山岡さんから皆さんへ

山岡さん:「小さな主人公」を育てるということをどのように意識されていますか?

大木本さん:私自身がシアトルのプログラムに1年間参加していましたが、そこでの「現地の人がどう生活しているか」「人種が違う人がどのように会話をするか」ということを体系的に学べたのが大きかったです。いかに自分事として考え、動ける人になるか。時間があるときにボランティアをする、お金があるときには寄付をするというようなことができる人が自然に増えていくことが大事です。シアトルのプログラムでは「学ぶ場」と言って週に1回ほど学習できる日を作っています。ただ労働するとういことだけでなく、体験だけもなく、「学習する」ことを合わせて実施することが大切だと考えています。

荒木さん:最初にこのシンポジウムのテーマを見たときに難しいなと感じました。ドラッカーの言葉に「非営利組織の成果は変革された人の人生である」というものがあります。まちのリーダーに対してフォロワーである「小さな主人公たち」を増やしていくことが大事という話につながるのではないでしょうか。あまり活発でない学生からフォロワーになる人がいて、そこからサーバントリーダーになる人がいて、中には世界的なリーダーになっていく人もいます。等身大の自己実現として社会参加していく中で、小さな主人公をゴールととらえずに、変化の過程でとらえてもいいのではないでしょうか。

そしてそのためにも日々の活動とは少し離れて俯瞰することができる内省の機会、例えば面談のようなフィードバックや対話の場が用意されているといいのかなと思っています。NPOがインターンを受け入れる場合もそういう場が必要ではないでしょうか。

秋元さん:フェアトレードをする団体で活動する学生が団体の人から「ジンジャーティーをどう売ればいいか」という相談を受けたことから、ジンジャーエールを作って「ジンジャーを飲んでエールを送ろう」というアイディアが生まれ、その後試行錯誤を重ねて、それを学園祭などのイベントで販売するということにつながりました。また別のところでは、就職活動をしている学生が国際協力の道を諦めきれず、NGOのスタッフにキャリアの相談をしたりしています。今回24人の学生が参加しましたが、うち6名が終了後も何らかの形で関わっていますが、こうした事例が「小さな主人公」なのではないかと思いました。

<活動を進める上での課題>

山岡さん:活動を進める中でいろいろな課題や困難があったと思いますが、それをどのように乗り越えてきましたか?

大木本さん:課題はたくさんありますが、ひとつは資金をどう確保するかということです。アメリカのように国の補助があればやりやすいと思いますが、なかなかそうはいきません。森林整備の作業委託費でも運営できるだけの財源にはならないのが現状です。資金調達のためには、どのように伝えて、共感を広げて、仲間を増やしていくかが課題となります。もうひとつは、常にいろいろな若者が来ますが、活動は同じ質で続けていかないといけないということです。安全面など含めて、ある程度仕組みにすることが必要なのではないかと考えています。

荒木さん:活動を始めて2年目くらい、大学生のスタッフが20名を超えたあたりから進路の相談などの活動外の支援をするのが難しくなってきました。そのような現状があったために大学生からの提案があって「スタッフサポート」というチームができて、そのリーダーも大学生がやることになりました。そのチームで相互支援しあうようになり、スタッフの負担も減り、さらに風通しもよくなりました。寺子屋は最初から学生と一緒にやることを前提しているので受け入れ体制がありますが、団体によっては受け入れ体制を整備することからスタートする団体もあります。受け入れの方法やノウハウについて、大学や中間支援組織から支援があるといいのではないでしょうか。

秋元さん:大学の中にボランティアセンターという大学と社会をつなぐ役割があるので、センターがサービス・ラーニングの授業を一緒に作るということが実現できました。またアクションポート横浜の中間支援があったことで、学生を育てる団体とつながることができました。大学が社会にどういうふうに貢献していくかという話はされていますが、個々の教員だけでなく大学組織委全体でどのように推進していくかを話していく必要があるのではないかと思います。

山岡さん:大学が中間支援とつながることこうした授業を実現できたということは、逆の視点からいうと、大学のボランティアセンターとつながったことで団体側も学生を受け入れることができたという側面もあるのではないでしょうか。資金の問題やいかに仕組みを作るか、さらには活動以外のサポートや学外組織との連携という多様な課題が出てきましたが、それらをさらに進めていくためにどのようなことが必要だと考えますか?

秋元さん:今回、プログラムの実施にあたって地域の団体とディスカッションしました。そこで学生に対していろいろな期待があるということも分かりました。しかし、その期待に応えるためだけに学生が行くというわけではありません。団体にとってではなく、学生にとってどうなのかという視点が必要になります。日本での大学の進学率が50%を超える中で、奨学金を借りて大学に通う学生が当たり前のようにいます。もしかしたら学生自体も当事者かもしれません。市民活動とつながることで自分が感じている生きづらさは社会課題かもしれないと気づき、解決につながるかもしれない、そういうことも意識しながら、期待したり、後押ししたりという視点も必要になると考えています。

荒木さん:私たちの調査はまだ途中ですが、現時点で明らかになっていることとして、「主体的に動ける環境」「大学ではない出会えない人との出会い」「キャリアに役に立つ」というのが学生の感じている評価点です。NPO側は未来を創る人材を預かっているという感覚を持ち、NPO・大学・中間支援が密にコミュニケーションをとっていくことが必要です。

大木本さん:何をするために、どういう人が必要かという視点も大事です。宇都宮で「子ども食堂キャラバン」という取り組みを行っており、子ども食堂を福祉施設で一日ずつやってみて、そこにインターンシップで学生が関わっている事例があります。ある目的に沿って、いろいろな人たちがかかわれる場を設計していけるといいのではないかと考えます。

山岡さん:「つながり」がキーワードになっていると感じました。秋元さんの話では「中間支援とNPOと大学がつながる」。荒木さんの話では「大学生同士がつながっている」など。そういう意味でインターンシップラボもつながりを生み出す場です。それがこの場の持つひとつの意味なのではないでしょうか。

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